西加奈子さんの『サラバ!』は分厚い上中下巻からなるお話。
長い話なので、読む前は読み切れるかと不安でした。
でも読み終わる頃には、もう終わりか、と喪失感でいっぱいになりました。
そしてこの本を読んでしまった後で、一体全体どんな本ならこの喪失感を埋められるのだろうと途方に暮れさえしました。
西加奈子さんの作品はほとんど網羅したけど、一番熱量をかけて書いた作品なのではないかと思います。
それくらいに読む側もエネルギーを使う話でした。
「サラバ!」は少年が大人になっていく物語で、上巻は輝かしいエジプトでの幼少期、中巻は思春期、そして下巻でいわゆる大人になった姿が描かれている大作です。
この作品の中で私が選んだ一行は
ある日気が付いたら、僕は30歳になっていた。―P44『サラバ!下』西加奈子
私もこの話を読んで気づいた、32歳。
自分を特別な存在だと思っていたこの本の主人公も30歳。
主人公も私も何も成し遂げることなく迎えてしまった30歳。
私も仕事をして家族がいて充実しているようでぽっかり空いた穴がある。
「サラバ!」を読んでその穴が何なのか少しわかった気がします。
私の人生は振り返れば期待というものに常に心を膨らませていたと思うんです。
中学のときはこれから入学する高校に、高校の時はこれから入学する大学に、大学のときはこれから働く会社に。
その場所で何かをすることよりも、その場所に到達するために頑張ってきたのかもしれない。
今は社会に放り出されて何を頑張っていいのかわからずぽっかり穴が開いています。
30過ぎて今更だけど、私も主人公と一緒で何かをみつけなきゃいけないんだと思います。
自分は特別な存在とか、自分はできるという気持ちが疑わしくなって人生に迷いはじめた頃にぜひ読んでほしい!
そういう気持ちになるのは自分だけじゃないし、迷いながらでいいと思える。そんな作品です。